1999年に愛知県半田市で創業して以降、ハンディのある本人が自分らしい暮らしを、暮らしたい地域で継続できるような隙間のない支援を行ってきた社会福祉法人むそう。創業以来からの変わらない想いを次の世代にもつなげていくために、経営理念を軸としたビジョナリー経営のさらなる浸透へ向けた課題解決に取り組むことにしました
ポイント
- 創業の経緯や背景、法人が辿ってきた歴史から大切にし続けてきた価値観を紐解く
- 経営と現場の認識のギャップが影響している問題をインタビューで明らかにする
- 経営と現場の認識のギャップが影響している問題をインタビューで明らかにする
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課題
一人ひとりに寄り添った支援の形を広げ、本物のノーマライゼーションの実現を目指している社会福祉法人むそう。この実現にはスタッフの主体的な関わりは欠かせない。理念を軸に自らが判断し行動し続けられる組織をつくりたいと考えた。
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実施したこと
トップや幹部とのヒストリカルレビュー、スタッフへの組織に対する現状の問題認識を確認するインタビューを実施。それらの結果を踏まえ、幹部及びむそうらしさを体現しているスタッフと共にプロジェクトを形成し、Will Bookのデザインを支援した。
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結果
共通の理念に基づく組織運営の実現へ向けて、採用や育成にとどまらず、日々の仕事におけるスタッフとのあらゆるコミュニケーションの接点において、Will Bookの活用が進んでいる。
“むそう”が目指す姿へ向けた組織のストーリーづくりが再スタートした。
語り手
理事長
理事
創業以来、順調に事業拡大していく中で、“むそうらしさ”が失われつつあった
以前は、創業者である戸枝のそばで働くことで、”むそう”の理念を自然と肌で感じることができていたが、法人の急成長に伴い、理念浸透の希薄化が進んでいく感じがありました。マネージャー層に「むそうの理念とは何か」と尋ねると、ホームページやパンフレットに書いてある言葉は出てくるのですが、エピソードで語ることができませんでした。つまり、理念が言葉として伝わっていても、自分なりに解釈できるほど浸透していなかったのです。
理念に対する組織の認識が曖昧なままだと、“むそう”の理念はいつか失われてしまいます。そのため、“むそうらしさ”を無くさないためにも、誰もが分かるように言語化する必要があると実感しました。 (五味)
“むそう”は2011年に愛知から東京へ進出し、東京では医療的なケアを必要とする子どもたちの支援事業を展開しています。”むそう”が親御さんからお子さんをお預かりすることで、不眠不休で子どものケアをされている親御さんに休息の時間を作っていただくことができます。当時の私は、目の前にいる親御さん達に一人でも多く休んでいただきたい想いから、事業展開へとエネルギーを注いでおりました。結果、理念の共有が後手に回ってしまったため、全体として考え方に差が生じていたように思います。
現在は創業当時と異なり、同業者も増えています。近頃は理念を掲げながら事業展開をされている事業所が増え、業界としても良い傾向であると思いますが、その地盤を築いたのは“むそう”であると誇りに思っています。これからサービスの質の面でも他の事業所の見本となるためにも、改めて理念の共有や確認が必要だと感じました。そのためのツールを探している中で、今回CADENAさんに相談いたしました。(戸枝)
プロジェクトメンバーが自身の想いを込めて、理念を言語化した「Will Book」を作成
理念について職員同士でこんなに時間をかけて語り合う経験は初めてでした。職員同士で理念に対するそれぞれの認識や自身のストーリーを語り合い、既にパンフレットやホームページに記載してある理念や戸枝が日頃から言っていることを掘り下げていきました。私たちにとって冊子へと落とし込んでいくこと自体に大きな意味があったと感じます。
これまでは自分たちの考えを述べることより、戸枝の答えを求める癖がついていました。そこで、今回のプロジェクトに戸枝は加わらないようにして、プロジェクトメンバーだけで答えを導かなければならない状況をつくりました。そのプロセスはかなり苦しかったと思います。しかし、苦しくとも自分たちで「Will Book」を作成していく過程が、プロジェクトメンバーたちに「自分たちで組織を作っていく」という自覚を持たせてくれました。
「Will Book」には、“むそうらしさ”を伝える職員たちのエピソードを掲載してもらいました。プロジェクトを通じて、一人一人がそれぞれのストーリーを持っていると確認をする事ができたことは本当に良かったです。(五味)
創業者の立場から見ると、「Will Book」に掲載した理念はまだ抜けているところがあります。プロジェクトを傍らで見ていて、わたしの想いがまだまだ伝わっていない部分が浮き彫りとなり、創業者として想いを言語化する必要性を実感することができました。私の考えでは、創業者による不変の想いが“理念”であり、“目標”は時勢によって変わっていくものだとすると、「Will Book」は今あるべき姿を言語化したもの、いわば今の時勢に求められる“目標”を整理したものだと考えています。
今回プロジェクトメンバーは、“むそう”の理念を議論できる選抜メンバーを揃えましたが、プロジェクトに参加していない他の職員にとっては、なぜこの理念がつくられたのか分からない人が多いので、可視化されたツール「Will Book」ができたことは、全体の共通認識を持つ上で非常に重要なことだと思います。
今回のプロジェクトでは、愛知の職員だけではなく、東京の医療者にも参加してもらったので、プロジェクトを通して両者の意見をうまくすり合わせることができたと感じています。(戸枝)
「Will Book」は職員の行動指針となり、採用や研修で活躍。会社と職員を繋ぐツールへ
採用のタイミングで、パートさんはじめ全員に「Will Book」を渡しているので、彼らは経営理念を理解し入社してくれるようになります。さらに職員が理念から外れた行動をした際には、理念に則した行動を意識し、今後改善してもらうように促すことができるようになりました。「Will Book」は聖書とか経典を読むように何回も読み直して、自分で振り返るみたいなものだと感じましたね。(戸枝)
新人へ「Will Book」を渡した際に、「非常にわかりやすいですね。」とよく言われます。「Will Book」は、“むそう”が何をしている組織なのか、どんな考えを持っているのかをわかりやすく理解してもらうツールとして手応えを感じています。(五味)
「Will Book」をあらゆる形で活用し、私たちが理想とする“むそう”を実現させたい
今回のプロジェクトで学んだことの一つに“非金銭的報酬”という考え方があります。当時、福祉業界が3Kと揶揄されている時代の中で、”むそう”では職員の手当を厚く支給したことがありました。この”金銭的報酬”はもちろん職員のモチベーションを高めることに効果はあったと思います。しかし、時が経つにつれだんだんと慣れてしまうこともあるのか、持続性という部分での弱さも感じていました。そのような経緯もあり、非金銭的報酬という言葉を学び、やりがいや感謝の言葉で、職員のモチベーションを高めることができれば、組織を持続的に強くする事ができると感じました。“むそう”にとって非金銭的報酬につながるものは何なのか「Will Book」ではそれが言語化できています。「Will Book」に記されていることを体現できる人がきちんと周囲から評価され、“むそう”で働くことでキラキラと輝くことができ、心から楽しいと思ってもらえることが、“むそう”にとっての良い文化であると思います。 今後、是非それを目指していきたいところです。(五味)
この業界で働くことは、ただの労働ではありません。福祉のマインドを持って取り組む人が出てきてほしいです。労働してお金をもらうことだけを目的とせず、24時間、困っている人がいたら向き合っていきたいという「福祉人」です。福祉のマインドがなければ、どこかで人を見放したり断ったりすることになってしまいます。私が引退するタイミングで、もし一人でも「福祉人」がいなかったら、むそうの理念を継承できず、会社をたたむことになるでしょう。「Will Book」で理念の大切さを浸透しつつ、「福祉人」を輩出できるよう、これから継続的に活動していきたいですね。(戸枝)