一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会

京都の「モノづくり現場」をオープンして交流を促進する オープンサイト

モノづくり事業者の魅力を伝えるためのワークショップとワークブックをデザイン

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京都のモノづくり現場をオープンし、人が集い伝え合うことから始まる交流と、創造的な未来につなげるオープンサイトイベントを継続的に開催している(一社)Design Week Kyoto実行委員会。参加者とのさらなる効果的な交流を促すために、ワークショップを通じて事業者の想いやストーリーの語り手を育む課題解決に取り組むことにしました

ポイント

  1. 丹後エリアにて、オープンサイト「DESIGN WEEK TANGO 2021」を共同開催
  2. オープンサイト参加事業者が自社の魅力や自身が感じるモノづくりでの喜びや働きがいを発見し、思いを伝えられるストーリーを磨きあげるためのワークショップデザイン
  3. 上記の取り組みで培ったノウハウや想いを日本全国へ発信するためのワークブックのデザイン・編集
  • 課題

    「オープンサイト」として、自然と風土の中で長い時間をかけて育まれた多様なモノづくり現場をオープンし、事業者と参加者の交流と創造的な地域の未来につなげる活動をしている(一社)Design Week Kyoto実行委員会。人との交流を促進し、信頼関係を醸成するためには、事業者に「語り手」として、モノづくりへの想いや地域との繋がり・地域特有の知恵を語り、多様な参加者と対話していただくことの重要性を感じていた。

  • 実施したこと

    「DESIGN WEEK TANGO 2021」を共催し、オープンサイトの企画運営、自社の魅力や強み、想いが自分の言葉で語れるようになる「自社を魅せる・伝えるワークショップ」を展開。自社の歴史、ご自身の経験や地域とのつながりを振り返り、参加者と交流する際の伝え方や効果的な交流のあり方を考える機会を創出。それらの内容に基づいた「ワークブック」のデザイン。

  • 結果

    自社の想いやストーリーの「語り手」として、自信をもって参加者へ伝えることができ、中には感動を与えるレベルまで成長した事業者が育まれている。その想いに共感した参加者と事業者間で新商品の開発が行われたり、新たにスタッフとして加わる事例が生まれたりするなど、新しい取り組みへ前向きに挑戦をされる事業者が数多く生まれ、(一社)Design Week Kyoto実行委員会が目指す創造的な地域の未来へ一歩つながった。

語り手

北林 功
一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会
代表理事
北林 佳奈
一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会
事務局

「DESIGN WEEK KYOTO」とは何か?
「オープンファクトリー」と「オープンサイト」の違い

現在、日本各地の至るところで「オープンファクトリー」が開催されていますが、そのほとんどは工芸や町工場といったモノづくり事業者のみに焦点を当てられています。当初、私たちも同様の取り組みをしていましたが、再設定した「オープンサイト」という名称のもと、モノづくりの概念を広げ、牧場・農場・寺社仏閣・ホテル・ラボ等の多様な事業者の皆さんに参加していただいています。DESIGN WEEK KYOTOでは、京都の地域特性や状況を踏まえ、販売や販路開拓を主たる目的には設定せず、地域に根付く事業者の皆さんが自社の魅力や自身の想いを多くの人たちに伝え、“人と人の交流を促すことで生まれる何かを創り出すこと”を主としています。
※2021年時点では、海外で一般的な名称である「オープンハウス」を使用

私たちが「オープンサイト」と名付けた理由としては、この取り組みで以下のような発展を期待していることが背景にあります。

  1. 事業者の皆さんが仕事の現場(サイト)をオープンにして想いを語っていただく
  2. その想いに共感・感動した参加者との交流が生まれ、仲間ができる
  3. その結果、創造的な地域の未来につながる視野(サイト)が広がっていく

 

オープンサイトは地域の未来を切り拓くきっかけになると考えています。(北林功)

(一社)Design Week Kyoto実行委員会とCADENAで、
地域のモノづくり産業を盛り上げるプロジェクトを手掛ける話に花が咲く

そもそもオープンサイトは、“自律・循環・持続可能で心豊かな社会の実現のために、そのポテンシャルを持っている京都を中心とした取り組みを何か手掛けていきたい”といった個人的な想いから始まりました。そのような中でDESIGN WEEK KYOTOを複数回実施する中、私たちだけで考えることに限界を感じていたタイミングでCADENAさんと出会い、議論を重ねる中で地域のモノづくり産業を盛り上げるプロジェクトを一緒に取り組む話に発展していきました。当初何も手掛ける内容が決まっていないゼロの状態でしたが、地域文化商社、ラーニング・ツーリズムなど様々なアイデアを出し合い、第一弾としてメンバーが縁も深かった丹後エリアでオープンサイト「DESIGN WEEK TANGO 2021」を共同で開催することに至ったのです。(北林功)

事業者が肝心なモノづくりへの想いが整理されていない状態であった

(一社)Design Week Kyoto実行委員会としての初期の頃は、私たちの未熟さや運営ノウハウがなかったこともあり、事業者の皆さんは自社商品や技術、工程等の一方的な説明が中心で、商品販売ありきで取り組まれたため、残念ながら肝心の交流が生まれづらい状況にありました。事業者の皆さんの想いが語られず、各社固有のストーリーが参加者へうまく伝わらなかったのです。これは非常にもったいないことだったと思います。事業者の皆さんが熱い想いをストーリーで語ることで、参加者の琴線に触れることができます。そしてその想いに共感する仲間が生まれ、雇用にもつながり、更にはその地域を好きになってくれる人が増えるような素敵な未来につながると信じています。(北林功)

一般的な「工場見学」の多くは、「仕事の現場を見せるだけ」で終わっていることが多く見受けられ、こちらから質問をしない限り見て終わりになってしまうと感じました。きっとその方々の心の奥にも熱い想いがあると思うのですが、モノづくり工程を見せることがメインと感じているのか、その事業者やご案内いただいた方の想いが何も伝わらず、個人的には非常に物足りなさを感じてしまいました。多くの事業者の皆さんは、モノづくりの想いを語ること自体、その重要性がそもそも頭に無かったのだろうと思います。個別にじっくり話をしていくと、皆さん素晴らしい思いや熱意があるのに、とてももったいない状態になっていると思いました。(北林佳奈)

「自社を魅せる・伝えるワークショップ」の開催へ

事業者の皆さんに自社の想いやストーリーを効果的に伝えられる「語り手」になっていただくことが必要だと感じていましたので、当初オープンサイトのリハーサル時に、私や北林佳奈が事業者の皆さんに個別アドバイスをしていました。アドバイスは事業者の皆さんにかなり好評であったものの、リソースの限界を感じ、更に私たちがアドバイスしていることが果たして本当に正しいものかは分かっていない状況でした。私たちは「こうした方が良いですよ」というようなパターンを言ってしまいがちだったので、私たちがポイントやエッセンスだけはお伝えして、それを踏まえて事業者の皆さん自身で考えてもらった方が良いなと思いました。そこでワークショップの開催検討に至ったのです。

ワークショップのコンテンツは実際に受講いただく現場の従業員や職人の皆さんが取り掛かりやすい、かつ取り組みやすい内容にしなくてはならないため、一人ひとりの顔を想像しながら「この内容であれば、聞いてくれるかな」といった議論をよくしていたことを思い出します。(北林功)

ワークショップの様子

語り手としてストーリーを磨き、交流が生まれ、新しい取り組みへとつながる

ワークショップに参加していただいた方から「何回参加しても学びがある内容でした。」「現場や若手にも受けさせたいです。」など非常に有難いコメントをいただきました。さらにオープンサイトを実践すればするほど、事業者の皆さんが語られるストーリーが格段にブラッシュアップされていると感じています。事業者の皆さんが自社の魅力やモノづくりの想いをアピールする力がついてきていることを肌で感じました。(北林佳奈)

事業者の皆さんが想いを語れるようになったことで、素敵な事例が生まれたのでいくつかご紹介します。いつでもオープンサイトで想いを語れる状態にするため、自社製品を常設するコワーキングスペース併設のショールームを建設された金属精密加工事業の方が現れたり、ある大手企業からの依頼で医療用装具事業の方と一緒に「オープンイノベーション」についての人材育成研修を実施する事例も生まれたりしました。その研修で、事業者の方が自社の魅力や想いを語った際に、私は涙が出るくらい感動し、依頼された企業の参加者からも大絶賛でした。当初はオープンサイトの参加事業者の方と協力して他社の人材育成研修をすることなど想像がつかないことでした。これらの事業者の皆さんはワークショップやオープンサイトを通じて、社長のみならず現場の方まで複数の語り手を育まれた結果であり、今では彼らの想いやストーリーに参加者が引き込まれ、拍手喝采の嵐が起きています。その他にも、自社の歴史を掘り下げる中で、今とは異なる事業をされていたという自社の源流に辿りついた織元さんや、大学で講師として登壇する機会に繋がったり、オープンサイトに参加された他地域の事業者の方と共同で新商品開発を行ったりした別の織元さんもいます。こちらの方はオンライン用にスライド資料を何度も何度もブラッシュアップされ、想いを伝える努力をされることで、来場者の心を動かされたのだと感じています。これらもワークショップを実施しなければ起こりえなかったことだと思います。(北林功)

オープンサイトの様子

事業者間で広がる成長の差を埋めることがこれからの課題

ワークショップへの参加やオープンサイトの取り組みに対して、やる気がある事業者の方はどんどん成長されていますが、一方で未だ「オープンサイト」に真剣になりきれていない事業者の方との差が広がっている状態を感じています。「なんでワークショップに参加する必要があるのか」「業務が忙しいから参加できない」「工場見学は昔からやっていて上手くやれているから、新しい取り組みは必要ない」といった声が挙がる中、どうすれば事業者の皆さんに「オープンサイト」への最初の第一歩を踏み出してもらえるかを考えなくてはならないところです。自社の想いやストーリーを語れるようになることは、展示会での説明や、営業活動、地域でのファンづくりなど、多くのことに影響が及び、波及的な効果を生み出せるので費用対効果でもかなり良いと思っています。若手とベテランが一緒に活動することで、組織内の交流を促すことにも活用できますからね。また、人に想いやストーリーを伝えるためには自社のことを深く知る必要があります。自社を深く知り、魅力や強みを知っていく中で自分自身の仕事の意味や意義を問い直し、働きがいややる気を持ってくれるような人が増えてくるかもしれません。(北林功)

自社の想いやストーリーを語れるようになる事は、採用でもかなりアドバンテージになりますね。自社のアピールの仕方が大きく変わっていくと思います。(北林佳奈)

京都中の事業者にオープンサイトの意義・効用や方法論を伝えるため
「オープンサイト実践ワークブック」を作成

そもそもワークショップに参加していても、オープンサイトやワークショップの意義・効用を理解している方とそうでない方では効果が違います。この事は私たちから事業者の皆さんへの伝え方に工夫の必要があると感じ、今回CADENAさんに「オープンサイト実践ワークブック」を作成依頼しました。多くの事業者の皆さんに我々がこれまで積み上げてきたノウハウのエッセンス、そしてオープンサイトに対する思いを詰め込んだ冊子を配布し読んでいただくことで、事前にオープンサイトやワークショップの意義・効用を理解していただき、ワークショップへの参加につなげていただきたいと考えています。

京都だけでも数万社ある事業者の中で、私たちが直接アプローチできているのはほんの100社程度だけです。より多くの事業者の方にアプローチするためには私たちが「オープンサイト実践ワークブック」を京都全域、さらには他の地域にも配布する必要があります。事業者の皆さんにはその冊子を読むことでワークショップだけでも参加したいと思っていただければ幸いです。その方々がワークショップを通じて自社の想いやストーリーを語れる状態になることで、(一社)Design Week Kyoto実行委員会が主催するオープンサイトに参加せずとも、各地域で自主的にオープンサイトを実施することにつながったり、その想いが広がるような取り組みが生まれたりすることが期待できます。そして「京都の方々って語るのが上手だね、何であんなに上手く説明できるのか。」と他府県の方々にも思っていただきたい。同時に京都が先進的な地域であることをアピールしていきたいです。(北林功)

大阪・関西万博を見据え、ラーニング・ツーリズムの展開へ

現在オープンサイトは年1回のイベントとなっており、参加者との交流が生まれる機会としては少ないと感じています。そこで年間を通じ、各地域の事業者の方が自主的に集まって現場を開くことを当たり前の状態に移行していただくようにしていきたいと考えています。(一社)Design Week Kyoto実行委員会としては、オープンサイトを主催せずともオープンサイトの意義・効用を伝えていく存在であれば良いのです。その上で新しいイベントとして、世界中からモノづくりに興味がある人たちが集まるカンファレンスを毎年8月に開催できるよう計画していきたいと考えています。さらに、企業向けの人材育成も見据えた「ラーニング・ツーリズム」の展開も考えており、参加者のニーズや課題に合わせた「学び」を現場での経験を通じて提供できるツーリズムを企画運営していきます。そのために「クロスカルチャーコーディネーター」という参加者と地域を繋ぐ中間人材の育成を行っています。仲間も増やしつつ、今後は「ラーニング・ツーリズム」の実現に力を入れていけたらと思っています。(北林佳奈)

2025年には世界中が日本に注目するであろう「大阪・関西万博」が開催されます。これに向けて地域を活性化させることで、事業者の皆さんの本来持つ魅力が可視化されていくきっかけとなることも目指していきたいです。そのために地域特有の文化的価値を根幹とした「ラーニング・ツーリズム」を展開してきたいと考えています。「ラーニング・ツーリズム」の実現に必要なことは、まずは地域の事業者の皆さんが現場で想いやストーリーを語って参加者と交流し、その上で「クロスカルチャーコーディネーター」が地域と参加者を繋ぎます。事業者の皆さんとの対話・交流を通じて、彼らが地域に根差している知恵や学びをもっと引き出していきます。例えば、海外の大学から参加された方は、単にモノづくりの工程を知りたいのではなく、なぜこの地域でこの技術が育まれているか、地域に詰まっている人類にとっての叡智を現代に応用できないか、など地域とのつながりや意義について学術的な観点から知りたがっています。その時に「クロスカルチャーコーディネーター」が彼らの問いに答えられるようなディスカッション・パートナーになることも大事なことだと感じます。

「ラーニング・ツーリズム」をすることで、その地域への愛着が増し、地元への定着率が高まり、関係人口の増加につながっていくと思っています。今回の取り組みでは、「ラーニング・ツーリズム」の一番の基本となる事業者の皆さんの語り手を育むところをCADENAさんと引き続きやっていきたいと思っています。日本各地でワークショップを開催するなど色んな可能性を一緒に探っていきたいですね。